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水珠を探しに

 何処までも砂地が続く。水も木も無い。人影も、動物さえも見当たらない。

 そこをただ行く宛もなく一人、俺は歩いていた。時折吹きつける強風で、足跡がすぐにかき消されてしまい、同じところを歩いているのか、そうでないのかも全く分からない。

 暫く歩いていると、人影が見えた。俺は歩調を速めてその人影に近づいた。その人が気付いたのか、俺の方を向き、立ち止まって軽く頭を下げた。俺は人よりも背負っている荷物に目がいく。

「こんにちは」

 その人が言った。口元を布で覆っているので、男か女かわからなかったが、今の声のトーンが高めだったので、女だとわかる。

「何処か遠くに行くのか?」

 俺が問いかけると、彼女は口元を覆っていた布を外して俺をじっと見た。

「…どうして、そう思うのですか?」

 間が少し開いて、彼女は真剣な表情で言った。俺は彼女が背負っていた荷物を指差す。

「すぐわかりますね。これでは。………水珠を探しに行くんです」

 彼女は苦笑しながら言った。

「水珠…?」

 俺は彼女に問いかけた。彼女はゆっくり頷く。

「今…水不足で……その水珠は…なんでも雨を降らせたり出来るそうなんです」

 水不足という言葉を聞き、俺は少し顔を顰(しか)めた。そしてまた問いかける。

「その水珠がある場所はわかってんのか?」

「…私の住んでいる村に伝わる古い書物には、こう書いてあるんです。『地の果て、何処(いずこ)にか隠されし神殿あり。その中に眠りし水珠。恵みを齎(もたら)さん』と。その書物に書いてあることが本当だとしたら、何処かにその神殿がある筈なんです」

「“何処か”…ってことは本当の場所はわかってない?」

 俺がそう聞くと、彼女は俯きながら首を縦に振った。

「隠されている…と書いてあるのですから……簡単に見つかるはずがないことはわかっています。でも…時間がないんです。一刻も早く探して…」

「俺も手伝う」

 俺はそう言った。彼女は驚いたように顔を上げて、眼を見開く。

「女一人でそう簡単に探せるとは思えない」

「それは…そうだと思いますが…貴方も何処かに行く途中なのではありませんか……?」

 彼女は俺を見ながら途切れ途切れに言った。俺は首を横に振って「行く宛なんかない」と言う。

「多分、俺が居た方がその神殿とやらを探すことが出来ると思う」

「あの…それは一体どういう意味ですか?」

 彼女は首を傾げながら聞いた。俺は自分が背負っていた荷物から、拳くらいの大きさの紅玉を取り出した。そしてそれを近くにあった岩の上に置いた。

「この紅玉は持ち主が求めているものの方向を示す。……求めん。隠されし神殿、その中に有らん水珠共に」

 俺は紅玉に両手を翳(かざ)しながら言った。紅玉が微かに光を帯びる。その光景を彼女は目を見開きながら、じっと見ている

 紅玉の光が一直線状に伸びる。その光の指し示す方向に、探す神殿がある。俺は紅玉を手に持ち、彼女をじっと見た。

「この光の先に神殿が…恐らくあるだろう。で…アンタの名前は?」

「リーア・ソフィストと言います」

「リーア…か。神殿まで、行くぞ」

 俺は彼女が付いて来られる程度の速さ――要するに、俺にとってはゆっくり――で歩いた。光はずっと彼方を指し示している。

 

 暫く歩いているとやけに開けた場所に出た。相変わらず辺りには何も無い。地平線の果てまで砂地が続いていた。紅玉の光が地を指し示してている。

「ここらしいな」

「…ここに…あるようには見えませんね」

 確かに、リーアの言うとおりだった。俺は屈み、紅玉の光が指す地を掘ってみた。

「あった…」

 俺はそう呟いていた。掘り当てたのは1つの岩。意味ありげに穴がある。紅玉の光が消えたので、俺は紅玉を荷物の中にしまった。

 リーアは俺の近くに寄ってきて、穴を覗きこんだ。「あ…」と呟き、彼女は自分の荷物の中から青玉を取り出して、その穴に入れてみる。――見事にその青玉は穴に収まった。

 と、その時。轟音をたてながら地が揺れ始める。青玉がはまった岩がどんどん上まであがってくる。そして、砂が盛りあがり、その中から大きな神殿が現われた。こんな経験は初めてだったらしく、リーアは目を見開きながら、その光景を眺めた。

「入ってみるか…」

 露になった神殿の入り口を見ながら、リーアに言った。彼女はゆっくりと頷き、歩を進める。その入り口の両脇には、アヌビス神を象ったと思われる石造があり、片手を天に向かって上げていた。

 入り口の前で立ち止まるとその上げられていた手がゆっくり下り、重い音と共に扉が開いた。

 神殿の中に足を踏み入れる。天上はかなり高く、足音がよく響いた。右側の壁面には、天空の神・ホルス、天の女神・ヌゥト、太陽神・ラー、太陽神・アトゥム、大気の神・シュウが。また、左側の壁面には湿気の神・テフネト、西方の支配者・ハトホル神、イシス女神、ネフティス神、大地の神・ゲブが。古代エジプトの『死者の書』にある十神が、右側に5人、左側に5人それぞれ描かれていた。

 暫く歩いていると、1つの扉に行き当たった。堅く閉ざされた扉の前には、アヌビス神の石造が右に、トト神、アメミトの石造が左に置いてあった。扉にゆっくりと赤く光る文字が浮んでくる。楔形文字のようだった。――きっと、彼女にとっては見なれない文字だろう。

「“問う。何が為にここまで来たか”」

 そう書いてあったので、そのまま俺は読む。そして、俺はリーアをじっと見た。彼女は扉の方を向き、ゆっくりと口を開いた。

「水珠を探しに来ました」

 また文字が浮ぶ。俺はその文字を読み続けた。

「“何が為に水珠を欲す”」

「…水不足をなくすために。……皆、苦しんでいますから」

「“水珠を手に入れれば、それが解消できると”」

「……そう信じています」

 リーアは静かに言った。

「“水珠の真意、中に入りて確かめるが良い”」

 最後にそう浮びあがり、扉がゆっくりと開いた。扉の先は広間のようだった。暗がりの中に、何かが青く光り輝いている。俺はリーアを中に入るように促すと、彼女は恐る恐る歩を進めた。

 何かの詠唱が聞こえた。それは女性の声で高らかに謳いあげている。青く光り輝くものの前に誰かが立って、その光に向かって謳っているようだった。ふと、その詠唱が止んだ。

『よく来ました』

 女神と呼ぶに相応しい女性が、極上の笑みを浮かべて立っていた。

『最後に…問います。貴方は…水珠を手に入れ、それを悪用せず、大切に守りぬくことを誓いますか?貴方だけでなく、貴方の村の人々、全員がそれを誓えると言えますか?』

 リーアは真っ直ぐにその女性を見つめて、「はい」としっかり言った。女性の手が上げられ、青く輝く水珠がゆっくりとリーアの前に降りてくる。

「ありがとうございます」

 リーアは水珠を受け取ると、深く頭を下げてそう言った。女性は相変わらず微笑んでいる。

『もし、約束を違えるようなことがあれば、即座に水珠は消えてしまいます。それを憶えていてください』

 女性がそう言って、俺とリーアを広間から出るように促した。広間から出ると、扉はゆっくりと堅く閉ざされた。

「神殿から出るんだ」

 俺はリーアにそう言った。彼女は頷き歩き出す。

 神殿から出ると、轟音と共にゆっくりと砂の中へ神殿は沈んでいった。最後に青玉が入った岩が目の前で止まり、リーアは岩の穴から青玉を取った。青玉を取り終わった後、岩はまたすぐに沈んでいく。

「良かったな」

 俺はリーアに微笑んで言った。彼女は満面の笑みで、嬉し涙を零しながら何度も、何度も深く頷いた。

 俺はリーアを村まで送った。リーアが突然俺の服の袖を掴む。

「あ、あの…貴方のおかげで神殿を見つけることができました。お礼が…したいのですが…」

「いや、その気持ちだけで良い」

 俺は首を横に振ってそう言った。彼女は俺をじっと見つめている。

「最後に…ずっと聞きたかったのですが、貴方の名前は…?」

「……ルイ・シークスだ。じゃぁな。約束、破るなよ」

 俺は笑いながらそう言った。

「また何時か…会えますか?」

 彼女の問いが後ろから聞こえる。

「気が向けば」

 と俺は言って、また歩き出した。「ルイさんっ!!お元気で」とリーアの声が聞こえる。

 

さて……これから何処に行こうか…

ああ、疑問に思っている人もいると思う

何故俺が古代文字なんかを読めたのか

何故俺がリーアと丁度良く、広い砂漠で出会うことが出来たのか

まあ、これは…

“神の導き”というやつということにしておこう_____

 

 水無月 綾那さんから頂きましたー。なんでも、相互リンク記念だそうです。
 テーマをリクエストしてくれと頼まれたので、思わず「砂漠」といってしまいました。ま、別に深い意味はないのですが。砂漠って、なんだかハードボイルドでかっこいいのです。皆さんもそう思いませんか? そこ、「思わない」なんて言わないで下さいねー(爆)
 探し物のありかを示す紅玉って、本当にあったらいいですよねー。僕はよく物をなくす人間なので、それを探すにもってこいです(笑)
 それにしても、相互リンクをしてくれた方には、絵や小説をプレゼントするというのは、太っ腹ですよねー。――僕にはそんなマメな事は出来ません。いやはや、水無月さんはすごい方です。
 ありがとうございます、水無月さん。大切に保管させて頂きます(^^)