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星の導き




星の導き




 森は静寂と暗闇に包まれていた。所々に、僅かな月明かりが木々の間から差し込んで、幻想的な雰囲気を漂わせている。しかし、それは道標にもならないほど微弱なものだった。
 立ち並ぶ木々の向こうに、少し開けた空間――小さな池があった。ほとりに、少年が仰向けになって空を眺めている。時折、手を天に翳したり、体勢を変えたりしているところをみると、眠っているわけではなさそうだった。
 池の近くにある、一際大きな大木の陰で、一人の青年が、少年を見つめていた。
 青年は、少年の背後から足音を立てずに少年に近付き、突如、大地を強く蹴った。
「ラッ君、み〜つけたっ!」
「うああぁっ!?」
 突然、身体に強い力が掛けられて、少年ラズ=ウィルフは悲鳴を上げた。勿論、青年はそこまでラズを驚かせる気は無かったのだが、まったく無防備状態だったラズからしてみれば、この程度の行為ですら、禁忌の反則技並の驚きと衝撃を含んでいたように思えたのだった。
 勢いよく飛び起きて、犯人の姿を確認したラズは、未だに驚きを浮かべたまま口を開いた。
「し、師匠! 脅かさないでくれよ〜」
 青年もといラズの師匠ルーン=ロリアスは、あまりの弟子の驚きように、逆に疑問を抱いていた。
「……ラッ君、何そんなに驚いてるの〜??」
「誰だっていきなり飛びつかれたら驚くだろ!!」
 しかし、ルーンは首を傾げるばかり。
 この人に理解を求めるのは無理だ、と確信したラズは、早々に抗議を諦めて、再び青葉の上に仰向けになった。その隣に、ルーンが腰を降ろす。
「わあ〜、ここは星が綺麗だねぇ〜……」
「だろ? 散歩してたら見つけてさ、穴場だと思ったんだ!」
 得意気に話すラズを余所に、ルーンは気がついたように手をぽん、と叩いた。
「……星かあ……。そうだ、ラッ君〜。流れ星にお願いするとしたら、何て言う〜?」
 一瞬、ラズは不可解そうに表情を険しくさせたのだが、すぐに意味を理解した。だが、確信が持てなかったため、念のため、ルーンに内容を話した。
「ああ……願い事を三回言うと願い事が叶う、っていうヤツだろ?」
「そう〜。で、ラッ君何て願う〜?」

(師匠の料理の腕が上がりますように)
(師匠が真面目になりますように)
(師匠よりも強くなれますように)

 ラズの頭を流れ星の如く過ぎった、ラズが願う三ヶ条。しかし、これを口に出すのはあまりにも危険すぎる。口にすれば、自分の生命が危機にさらされる。それだけは避けなければ。
 必死に考えを廻らせること、数秒。
「……、……、……、……は、早く(雷以外の)呪文が上手になりますように……かな」
 何度も言葉を躓かせながら、何とか出てきた答えに、ルーンは納得した様子を見せない。
「今、みょ〜な間があったような気がするんだけど……?」
「き、気のせい気のせい!」
 誤魔化そうと、ラズが必死に声を上擦らせて答えた。
 しかし、まだルーンは不満そうにラズを見つめている。これ以上、師の機嫌を損ねるのは得策ではない。話題を変えて気を紛らわせるために、ラズが口を開いた。
「そ、そんなことよりも師匠、何でいきなり願い事なんか聞いたんだよっ」
 それまでの表情を激変させて、ルーンはラズに聞き返した。
「……何でって……、……もしかして、ラッ君……忘れてる〜??」
「忘れてる? 何を……??」
 一向に答えが出る気配のない質問だけが続く。
 本当に理解できずに目を丸くさせて、首を傾げるラズの様子を見たルーンは、一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐにそれを苦笑いへと変えて、悩んでいるラズに告げた。
「ヤダなぁラッ君〜、今日は七夕じゃないか〜」

――あ。

 すかさずラズの頭にカレンダーへと切り替わった。
(……忘れてた……)
 口元をおさえて、バツの悪そうな表情を浮かべる。幼少時代は、あれほどこの日が来るのが楽しみでならなかったのに、まさかこうも簡単に忘れてしまうとは思ってもいなかった。
「年が経つのって怖いモンだなぁ〜……」
 ルーンの顔を見つめたまま、ラズは呟いた。
「……何で僕の顔を見ながらそういう事言うのかなぁ〜?」
 案の定、ルーンは眉間にシワを寄せながら笑顔でラズに尋ねた。何でもない、とラズはルーンから顔を背けて答える。
「……そういや、師匠は何て願い事するんだよ?」
「そりゃ〜、七夕だからね〜、織り姫と彦星が出会えますように、って願うよ〜?」
 今度はラズが嫌そうな顔をしてルーンを睨みつける番だった。
「……」
「何だよラッ君、心底疑うような目で人を見て〜」
「心底疑ってるから見てるんだよ! 師匠がそんなこと願うはず無いって!」
「さり気なくヒドイ事言うね〜、ラッ君」
 僅かに顔を引きつらせながらルーンは呟いた。素っ気ない態度のまま、ラズは鼻で息をつく。
 吹いていた風が止み、沈黙がその場に停滞する。森の生き物が全て寝静まっても、月と星だけは、ずっと絶えることなく輝き続けていた。
「大体、織り姫と彦星なんかおとぎ話じゃないか」
 ややあって、ラズは瞳を閉じて、半ば投げ遣りに声を上げた。
「案外そうじゃないかもよ〜? ラッ君にも織り姫との出会いが……」
 驚いて、ラズは目を見開いて上体を起こし、隣に視線を送ったが、そこにルーンの姿はなく、代わりに、後ろの木の陰で、こちらに背を向けているルーンの姿があった。
「……まあいいや、おやすみ〜」
「ちょっと待てよ師匠! それってどういう意味……」
 ルーンの姿が闇の中へ消えた。呪文を使ったのか、はたまたごく自然に歩いていったのか――足音が無かった点からすると前者だが――定かではない。
 一人残されたラズは、ルーンの消えた木陰を見つめながら言葉を漏らした。
「……行っちゃった……みたいだな」
 先程までと同じように、仰向けとなり星を眺めた。
 今にも零れてしまいそうなくらいの沢山の星が、夜空に輝いている。月夜は、月の光で大抵星が消えてしまうのだが、今日は、星が月以上の輝きを放っているように見えた。
 いつしか、止んでいた風がラズの頬を過ぎていく。
「出会い……か」
 誰ともなく呟いたラズの視線の先で、一際大きな輝きを放っていた星が一つ、流れた。

 ――後日、ラズは青い髪の少女と出会うことになる――





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 またもやMiss.Sophiaから頂いてしまいました。本当に、毎度毎度すみません。いつかお返しをしますからねー(迷惑)
 ロマンチックな星空の描写が美しいですよねー。僕もこんな描写が出来れば良いのですが、なかなかそうはいかないのです。また、彼女は語彙力がずば抜けているので(Miss.Sophia=歩く広辞苑)、微妙で複雑な動作等の描写も出来るのです。
 しかし、他人の小説を書くと、どうしても無理矢理設定を捻じ曲げてしまうような気がします。例えば、この小説にある池は彼女が「森に池の一つや二つくらいあるだろ。つか無くてもあたしは知らん」(後書きより)と、投げ遣りな考えの元に作り出したものです。(すみません、Miss.Sophia。こんな事暴露してしまって/汗)
 ありがとうございました、Miss.Sophia。大切にしますからねー。

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