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曇り空の午後。




曇り空の午後。




「これはぁ、一体何なんでしょうねぇ?」
「さぁ…?」
 台所には二つの人影。
 少年と少女が、揃って首を傾げた。

 長い沈黙は、何者の介入も拒んではいないのに、言葉は一向に出てこない。
 佇む少年と少女。二つの人影は、先刻から動く気配もない。目の前に置かれている大きめの土鍋を見つめたまま、言葉を失っているのか、考えているのかは定かではない。
「えーっと…」
 ついに耐えられなくなって、少年が頭を掻きむしりながら、声を上げた。
「テイルちゃ〜ん、これって、何なのかなァ?」
 作り笑いを浮かべた少年が尋ねると、
「ラズさん、わたしにもわかんないですぅ」
 満面の笑みでテイルと呼ばれた少女が答えた。
 隣で少年ラズが、がっくりと肩を落とし、溜め息をつく。テイルは土鍋の中にもう一度視線を落とし、隈無く見回した。火から降ろしたばかりのようで、中に入っている液体とも固体とも言い難い物体は、まだボコボコと沸騰していた。色は言葉では形容し難いので、黒とだけ言っておく。臭いはしない。
「あのさ、テイル。一応聞くけど…、…何作ったんだ?」
「…何だったかしらねぇ…?」
「覚えてないのかよ!!」
 ラズの裏拳が宙を切る。
「まず、食べられるのか、これ?」
 無論、ラズの中で答えは出ている。例えラズで無かったとしても、答えは出ているだろう。
 テイルは横目で土鍋を見、それからすぐにラズを見て、口を開いた。
「大丈夫ですよぉ。見た目は悪いですけどぉ、自信はありますからぁ〜」
 料理音痴の自覚ゼロ、と素早くラズが記憶にメモをした。
「…ゴミ箱何処だったかな…」
「えぇーっ、食べないんですかぁ?」
「(いや、無理)」
 心の奥底で、もう一人のラズが全力で首を振っているのをラズは感じた。
 ラズが土鍋を両手で持ち上げるのを見て、テイルは顔を伏せ、肩を落とした。うっ、とラズは小さく呻き声を上げる。テイルの瞳に、輝くものが見えた。ラズは土鍋を持ったまま固まり、再び長い沈黙が訪れた。
 台所の傍らに開かれている窓の外から、いつ聞いても気抜けする声が聞こえる。呪文の発動に失敗したのか、何やら騒がしいが、そんなことはこの際どうでもいい。
 テイルはその間もずっと、純真無垢な眼差しでラズを見つめている。
 ――両者が睨み合うこと数分。
「…わかったよ。食べよう」
「ホント?! うれしいですぅ!」
 嬉しさのあまり、辺りを軽く飛び回るテイル。ラズは思わず失笑を浮かべた。
「じゃあテイル、箸と皿持ってくれないか?」
 そう言うと、ラズは土鍋を元に位置に戻して、窓から身を乗り出した。
「師匠、三時のおやつできたぜー!!」
 わ〜い、と喜びの声が聞こえて、直後に呪文の詠唱が聞こえた。どうやら、冷静に対処できたらしい。
 ラズは土鍋を持ち直して、振り返り、箸と皿を抱えたテイルに微笑んだ。
「行こうか」
「はいっ」

 十数分後。
 悪戦苦闘の末、先から呪文に遊ばれていた一人の青年が、地に伏していた。





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 Miss.Sophiaより、ある魔導師の物語の短編を頂きました。何でも、ネタが思い浮かんだので、発作的に書き上げたとのことです(微妙に脚色) なんせ、日常のひとコマを表現するのがお好きなようなのですよ、Miss.Sophiaは。
 やはりこの短編での見所は、ラズとテイルの漫才的掛け合いですね。何てったって、この二人の掛相には作者である僕も、思わず吹き出しそうになってしまうところが。――本人が書くより面白かったりして……いかんいかん、ネガティブな考えを捨てなければ。
 ちなみに、またもや彼が餌食に。というか、ルーンはもはやお約束でしょうね。テイルの料理って、空中からばら撒けば、恐らく大地は腐食し人間は悶え苦しみ……嗚呼、阿鼻叫喚の地獄絵図(笑)
 兎にも角にも、素敵な短編をありがとうございました。ただ、Miss.Sophiaが小説を書く度に誰かが犠牲になるのでは(以下削除)

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